宮城県図書館だより「ことばのうみ」第5号 2000年7月発行 テキスト版
おもな記事
- 表紙の写真
- 表紙エッセイ 『昔話』 児童文学者 石井桃子さん
- 特集 図書館法制定 50周年を迎えて-
- 図書館 around the みやぎ シリーズ第1回 石巻市図書館
- 貴重書の世界 「奈良絵本」
- わたしのこの一冊 田紀枝子著『葉柳に… 俳人阿部みどり女ノート』
- 図書館Q&A
- 図書館からのお知らせ
表紙の写真。
6月18日に行われた、子ども読書年記念行事「たのしい童謡コンサート」の様子です。出演は仙台童謡愛好会、会場は宮城県図書館ホール養賢堂。
図書館アートシリーズ その2。
宮城県図書館正面入り口北側にある”Kissing Birds”です。メナシェ.カディシュマン(イスラエル)作。
表紙エッセイ 『昔話』 児童文学者 石井桃子さん。
このごろ、くり返し考えることがある。機械が発明されて以来、世の中は日々便利になり、いまの若い人たちは、老いた私の頭では想像もできないほど情報過多な世界に住んでいるわけだけれど、気持の豊かさという点では、どうなのかということである。
四、五歳のころ、私は、昼間は近所の子どもたちと、一日外で遊び呆けた。ひょっとあたりを見まわし、暗くなりかけたのに気づくと、走って家に帰った。家族そろっての夕食をたべ、そのあと、寝る前の一家だんらんがあった。末っ子の私は、祖父のあぐらの中に坐って、昔話を聞くのがたのしみだった。「かちかち山」や「さるかに合戦」などさまざま。
ああいう話は、子どもに残酷か。いま大人としてふりかえって考えてみると、残酷と思えなくもない。けれど、あぐらの中でそれを聞いた幼児の感覚には、残酷さなどは、みじんもなかった。私の心にあったのは、興奮であり、躁状態であった。私は両手を打って、祖父の話や歌に唱和した。
あの時、私は、あの興奮の中で、自分の心に潜在する残酷さを、一皮、一皮ぬぎすてていったような気がしてならないのである。
著者のご紹介。
いしい・ももこ。児童文学者、作家、翻訳家。1907年埼玉県生まれ、東京都在住。日本女子大英文学科卒。著書に『ノンちゃん雲に乗る』『子どもの図書館』など。翻訳は『クマのプーさん』など多数。1945年に、宮城県栗原郡鶯沢町(当時の鶯沢村)に疎開し、「ノンちゃん牧場」を開き酪農を営む。4年ほどで東京に帰ったが、1956年から2年間、鶯沢小学校で読書指導にあたった。1953年菊池寛賞受賞。
特集 図書館法制定 50周年を迎えて-
今年は、1950年(昭和25)に図書館法が制定されてから50年の節目の年です。図書館法は社会教育法の精神に基づいて、公共図書館の設置および運営全般について定めた法律です。
図書館については、「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」(第2条から一部抜粋)と定義しています。公共図書館サービスの特徴である、「だれでも利用できること」「利用者の求める資料を収集し、提供すること」「図書館資料の利用は無料であること」なども、この法律にうたわれています。
図書館法制定から半世紀を経た今日、情報化社会の進展や利用者ニーズの多様化など、図書館を取り巻く環境は大きく変化しています。また、今年は「子ども読書年」でもあり、子どもの読書環境についてもあらためて関心が集まっています。
そこで、今回の特集では、図書館法の精神を踏まえつつ、図書館のこれからを考えます。
これからの社会と図書館 宮城大学教授 山崎久道 氏(崎:正しくは たつさき)
情報化社会の進展のなかで。
図書館が、図書館法の制定とともに新しいスタートを切って50年、図書館――とくに地域の公共図書館――は私たちにとって、読書や学習の場として身近な存在になりつつあります。
しかし、いま図書館の役割は大きく変わろうとしています。情報化社会が進み、インターネットその他の情報技術が、目を見はるような進歩を遂げました。
また、地方自治体や国は、さまざまな手段での情報公開を進めています。このための条例や法律の整備も行われています。さらに、企業も不透明な経営破綻に対する反省から、積極的な情報開示に向かうことが予測されます。
また、インターネット・ショッピングなどの普及で、私たちは居ながらにして好きなものを選んで買ったり、投資を行ったりすることができるようになるでしょう。
情報を集める能力と選び取る能力。
こうした中で、私たちに求められることは、必要な情報を自分で集めて、その価値や信頼性を自主的に評価して、行動に活かしていくことです。これまでわが国では、どちらかというと、情報は自分で集めるというよりも、企業や役所など、よそから与えられるものという意識が強かったように思われます。そこでは、与えられる情報を鵜呑みにしてしまうことが多く、健全な批判精神が働く余地はあまりなかったと思われます。 これからの社会は玉石混淆の情報があふれる社会です。そこでは、情報を集める能力とそこから確かなものを選び取る鑑識眼が、生きる上で必要になります。こうした能力を欠いていると、思わぬ失敗や損害を被ることになりかねません。
図書館は情報を評価する「知恵」の宝庫
図書館は、自主的に情報を集めようとする市民や住民の力強い味方になります。そこにはさまざまの分野で定評を得た書物や資料が、必要な知識を利用者に提供します。確かに最新の情報の提供という点では、インターネットの方が、図書館よりも優っているかもしれません。しかし、情報を評価する「知恵」を与えてくれるものは、書物に詰まった知識以外にありません。図書館はその宝庫なのです。 しかも、利用者は自分で必要な情報を、好むところにしたがって誰にも強制されることなく集め、評価して、それを自分の生活に活かしていくことができるのです。これこそ、「自立した市民」の具体的な姿ではないでしょうか。
図書館が社会の知的基盤となるために。
また、今後の高度情報化社会において、考えなければならないのは、コンピュータやインターネットの操作が十分に行えない高齢者などの存在です。とくに、福祉などの基盤的な公的情報が、このために入手できないことがあってはならないのです。今後、公的情報の多くは、印刷費用の節約などから徐々にインターネット経由に移っていくと思われます。こうしたときに、インターネットと利用者の間に立って、情報の仲介をするのは図書館員の新たな使命だと思います。図書館員は、そのための能力を磨く必要があります。図書館利用者と図書館員が新しい時代に積極的に対応する努力を惜しまなければ、図書館は社会における知的基盤として、ますますその重要性と輝きを増していくことと思います。
山崎久道氏の紹介。(崎:正しくは たつさき)
やまざき・ひさみち/宮城大学事業構想学部デザイン情報学科教授、同大学総合情報センター長。昭和21年生まれ。東京都出身、東京大学経済学部卒。株式会社 三菱総合研究所を経て、平成9年4月から現職に。公職に国立情報学研究所総合目録委員会委員、宮城県図書館協議会副会長など。著書は『専門図書館経営論』など。博士(情報科学)東北大学。
トピックス かこさとしさんが講演 - 子ども読書年記念行事-
6月17日に、絵本作家・かこさとし(加古里子)さんの講演会「子どもの本の今とこれから」が開かれ、会場のホール養賢堂には、約200人が集まりました。かこさんの著書『富士山大ばくはつ』(小峰書店 1999年)は、今年の「青少年読書感想文コンクール」の課題図書となっています。
石井桃子先生の読書指導と牛乳の試飲 宮城県鶯沢町教育委員会教育課長 高橋長人(高:正しくは はしごだか)
私と石井桃子先生の出会いは、小学校5年生の春。担任の中村先生から、「今年から2年間、『ノンちゃん牧場』の石井先生から本の朗読と牛乳の試飲があります」とのお話でした。昭和31年4月鶯沢小学校ではまだ給食はなく、5年B組だけが牛乳を飲めるのは(子どもの栄養指導ということで校長先生が許可)、他学級に申し訳ない気持ちでしたが、お昼の時間が待ちどおしかったものでした。
石井先生の読書指導では、一週間に1回、国語の時間に本の朗読をしていただきました。読書の習慣がなかったので、初めのうちはあまり関心が持てませんでしたが、いろんな本を読んでいただくことにより、関心が高まり一週間が待ちどおしくなったものでした。何回か進むうち漫画本をおねだりし持ってきていただき、休み時間によく読んだものです。2年間はアッという間で、その後はだんだんに縁遠くなってしまいました。
平成10年に、町ではいろんな事で関係の深い『石井桃子文庫』コーナーを、鶯沢小学校の図書室に作りたい旨の問い合わせを致しました。石井先生からは「子どもたちがひょいと気をひかれて入ってきて、本を読みはじめるというような場所をつくってくださるなら、お手伝いしましょう」という返事をいただき、10月に助役、教育長と私とで、東京荻窪の石井先生宅を訪問しました。40年ぶりにお会いした石井先生はかくしゃくとして目標を持ち、話が進むにつれ、小学校5年生にタイムスリップしたようでした。
お陰様で、平成11年度に小学校図書室に『石井桃子文庫』コーナーを設けることができ、子どもたちが楽しく利用しています。今思うとき、読書は漫画と違い想像力が身に付くものであると、職場で話しています。これも、石井先生の読書指導のお陰と感謝しているところです。
「子どもに本を」-図書館でのボランティア活動をとおして- 宮城県図書館ボランティア 遠藤聡子(仙台市泉区)
私が本に興味を持ったのは、小学校の図書室に通ってからでした。赤毛のアンや推理小説、SFなどが好きでした。
そこで一番印象に残っている本は、『8月がくるたびに』(おおえ ひで理論社1971年)で、幼い少女が原爆で母親を亡くし、自分も大やけどを負ってしまう悲しい話です。戦争の事はよく知らなくても、恐ろしい出来事にショックを受けました。
私には、今、中学生の子どもがおり、学校で歴史の勉強をしていますが、教科書の中には、出来事だけをそのまま暗記させる、つまらないところもあるように思います。図書館には戦争に関する記述の本もたくさんあります。なぜ戦争は起きたのか。なぜ宗教や民族争いは絶えないのでしょうか。
図書館はあらゆる情報の源であるし、探求心を育成する場です。ここには子どもたちが学ばなければならないことが凝縮されています。21世紀にむけて、より多くの子どもに、本の楽しさを知って欲しいと思います。そして日々、書架整理のボランティア活動をとおして、図書館を利用されている方々の姿を拝見し、ますます自己啓発をしなければと感じています。
図書館 around the みやぎ シリーズ第1回 石巻市図書館館長 瀧本清明。
明治14年創設の牡鹿郡内共立書籍館が石巻市図書館の前身です。「書籍」は古めかしく「しょじゃく」と読みます。そんな長い伝統がありますから、近代化に、やや時間がかかっているかも知れません。蔵書中の和漢書約7000冊がその歴史を具体的に物語っております。なかには、戊辰戦争からす組隊長細谷十太夫(ほそやじゅうだゆう)からの寄贈書があったりいたします。
明治14年は1881年。それからちょうど1世紀の後にスタートした障害者へのサービスが現在の石巻市図書館の特色でして、国際障害者年を契機に始めた視覚障害者を対象とした地域情報誌の編集発行は、先進例として注目を集めました。この地味でめだたない仕事もまる20年、点訳ボランティアの方々の支えがあって、歩みを止めたことはありません。
現在の蔵書数18万冊、貸出冊数31万冊強。誇れる数字ではありません。現在地に新築してから、25年間で15倍の貸出、2025年には60万冊程の貸出になるでしょう。「図書館は成長する有機体である」とよく言われますが、なるほどそうだと思います。石巻市図書館は、ゆっくりと成長し続けます。
石巻市図書館のご紹介。
- 開館時間:火曜日・木曜日・金曜日、第2日曜日の次の月曜日は9時0分から16時45分、水曜日は19時0分まで、土曜日・日曜日は16時0分まで
- 休館日:毎週月曜日(第2日曜日の次の月曜日を除く)、第2日曜日、祝日、年末年始、特別整理期間。
- 交通案内:JR石巻駅から徒歩15分。
- 自動車図書館「ひより号」運行。
- 図書館のデータ。
- 住所:郵便番号986-0831 石巻市羽黒町1-9-2。
- 電話番号:0225-93-8635。ファクス番号:0225-21-1598。
時空をこえて 貴重書の世界 奈良絵本(ならえほん)。
室町末期から江戸前期にかけて、色彩感あふれる手書きの本がうみだされた。奈良絵本-それは絵本のはじまりともいわれている。挿絵の色調は、原色を主とした濃彩。後期の作品には、金銀をちりばめた多彩絢爛なものが多くみられる。その豪華さから、嫁入り本などとしてもてはやされた。また、ほとんどの作品で、本の天地に青色や金砂子の雲霞が引かれているという点もおもしろい。
この時代には大名たちの集書が流行し、やがて富裕な町人や地主階級にまで購買層がひろがったという背景がある。本の内容にしても、御伽草子をはじめ、謡曲や古浄瑠璃、軍記物など多様であった。
本館にも奈良絵本が一冊残されている。横長本で本文10丁、挿絵片面4図。残念ながら、表紙と本文後半約2丁分を欠いている。書名の記載がなく、不完全な体裁ではあるが、慶応義塾図書館所蔵の『かざしの姫』、またハーバード大学附属フォグ美術館寄託の『菊の精物語』と同内容である。宮城
わたしのこの一冊 『葉柳に… 俳人阿部みどり女ノート』 田紀枝子(仙台)著 1999年
「つつましくもひたすらに」仙台市 今田 拓。
宮城を代表する俳句結社「駒草」の現主宰である田紀枝子の『葉柳に…俳人阿部みどり女ノート』が、平成11年度の第14回俳人協会評論賞に輝いた。『葉柳に…』は、「駒草」の創始者であり、かつて筆者が師事したみどり女の追憶をまとめたもので、みどり女というヒロインを、正確な記録と記憶に基づいて紹介している。
みどり女は明治19年生まれ、昭和55年、94歳の長寿でこの世を去っているが、大正元年(26歳)に俳句を始めた背景には、新婚時代の結核感染、療養生活という追いつめられた事情があった。高浜虚子に師事、「ホトトギス」女流としての地位確立、昭和7年「駒草」の創刊、昭和19年「駒草」休刊(夫とひとり息子を同じ年に失い、戦争の熾烈化などによる)となり、東京から仙台の娘を頼りに疎開する。『葉柳に…』の内容はここで終章になる。それ以後は仙台がみどり女の活動舞台となり、「駒草」の復刊とともに新しい戦後作品が開花する。
筆者は「調べる程に書く程に女流俳人草創期といわれる人達の、つつましくもひたすらな、俳句に対する熱心さにいつか心を惹かれてしまった」と述べているが、資料を冷静に整理して事実を記述することに徹した「ノート」は、それだけに迫力を持っている。それにもまして美しい文章の見事さに拍手を贈りたい。
図書館 Q&A。
字幕・手話付きビデオ、録音図書を利用したいのですが。
宮城県内にお住まいで身体障害者手帳をお持ちの方(録音図書は、Q&A読書に障害のあるすべての方)が利用できます。来館できない方には、郵送貸出(郵送料は図書館で負担)もおこなっています。5点まで、30日間貸出します。
利用の手順は、次のとおりです。
- 利用カードを作る(企画協力班企画担当 電話番号 022-377-8444/ファクス番号 022-377-8484)
- 貸出を申込む(視聴覚資料担当 電話番号 022-377-8446/ファクス番号 022-377-8490)
直接来館、郵便、電話、ファクスで申込みができます。
図書館からのお知らせ。
みやぎゆかりの先哲たちから相馬黒光
日時は平成12年8月6日(日曜日)午後1時30分からです。
講師は共立女子大学教授 西村真一氏です。
定員は先着150人です。電話での申込が必要です。申込先は企画協力班企画担当 電話番号:022-377-8444。
図書館の写真展
日時は10月31日(火曜日)から11月5日(日曜日)です。
講演会&シンポジウム
日時は11月3日(金曜日)午後1時からです。ライブラリー・ミニ・コンサート
日時は11月5日(日曜日)午後2時からです。
この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第5号 2000年7月発行